技術者派遣の注意点

すでにフロンで大もうけしていたデュポン社には、他社が追随する前に規制を強化できれば、今度は代替フロンでも世界市場を押さえることができるという読みがあり、米国政府に規制強化を働きかけたといわれています。
その後、産業界でもフロンを使わなくてもやっていける目途が立つようになりました。 モントリオール議定書は何度も改正され、そのたびにフロン規制は厳しくなり、対象物フロンは廃止され、皮層ガンや白内障のリスクは大幅に削減されました。
けれども、夢の物質が使えなくなったコスト(代償)も小さくはありません。 いまではフロンは、先進国では製造も使用も禁止され、開発途上国でも2010年には全廃されることになっています。
世界のフロン使用量は1986年に110万tだったものが、的年には17万tにまで削減されました。 フロンを規制しても、オゾン層はすぐには回復しません。
これまでに放出されたフロンが何年もかけて上空へゆっくり昇っているからです。 実際、2006年9月には南極上空で、過去最大規模のオゾンホールが観測されました。
けれども、2020年頃からオゾン層は回復しはじめ、今世紀中ごろまでにはオゾンホールは解消されるだろうと予測されています。 もしもモントリオール議定書がなかったら、フロンの消費量は2010年には300万t、2060年には800万tに増加し、2050年までに皮層ガンになる人は2000万人、白内障などの眼の疾患にかかる人は1億3000万人増加すると、世界銀行は推定しています元)。
これこそ、科学の進歩と国際協力の成功例と考えていいでしよう。 それまで日本では、引火の危険がある可燃性ガスをスプレーに使うことは、高圧ガス取締規則で禁止されていました。

ところが不燃性の噴射剤として簡単に使える化合物はフロン以外にはないので、規則が改正きれて可燃性ガスが使えるようになりました。 現在では、たとえばプロパンがスプレーの噴射剤として使われています。
プロパンは家庭用の燃料ガスとして使われているように、燃えやすい物質です。 ですから、そういうスプレー缶には「可燃性」とか「火気注意」とか書かれています。
火のそばで使ったりすると、火炎放射器になりかねません。 スプレー缶を積んだダンプカーが横転して爆発する事故も起きましたが、フロンが使えた頃はそんなことはなかったのです。
オゾン層破壊のリスクを削減するコストとして、火災のリスクが増えたということです。 冷蔵庫も簡単ではありません。
フロン分子を構成する塩素原子の一部を水素原子で置き換えた、オゾンを破壊しない代替フロンが開発されました。 けれども代替フロンはフロン同様、地球温暖化の原因となる温室効果ガスでもあります。
そこで、もっと環境影響の小さい冷蔵庫ということで、プロパンやブタンなどの炭化水素を使った冷蔵庫が開発され、ヨーロッパでは広く市販されています。 ところがそういう冷蔵庫は、代替フロンのものより効率が悪いのです。
日本の法律は、環境についてふたつの基準を定めています。 「環境基準」と「排出基準」で、両者は全く別のものです。
ところが新聞やテレビでは、時には学者までが、環境基準と排出基準を取り違えたり、ごっちゃにしたりしています。 両方を一緒にして言いたい時には、適当な用語がないので「環境に関する基準」とか「環境についての基準」と言うしかありません。
環境基準とは、「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」(環境基本法)です。 国や地方自治体は、空気や水や土壌に含まれる汚染物質の濃度が、環境基準以下になるように努力しなければいけません。

騒音にも環境基準が定められていて、住宅地には住宅地の、商業地域には商業地域の基準があります。 役所は、騒音をそれ以下に抑えるように努力しなければいけません。
ただし環境基準は、あくまでも目標値です。 それ以かもしれません。
そういうことで、簡単には代替フロンを捨てることができないのも事実です。 環境基準は、さらにふたつに分けられます。
ひとつは、生活の快適さや生態系保護に関する項目で、水質の場合には「生活環境の保全に関する環境基準」、略して「生活環境項目」といいます。 川の水に有機物がどれだけ増えても、直接飲んだりしなければ人間の健康に影響が及ぶことはまずありません。
けれども有機物が増えれば水中の微生物によって分解され、このときに水中の酸素(溶存酸素といいます)が消費きれます。 そして、あまり多くの溶存酸素が消費されてしまうと魚や貝は生きていけなくなります。
見た目にも汚い濁った川になり、ひどくなると悪臭を放つ。 川が汚れれば、そこに棲む生物だけでなく、人間にとっても快適なものとは言えなくなります。
そのため、河川水に含まれる有機物には「維持されるのが望ましい量」というのがあり、これが環境基準になっています。 生活環境項目の基準は日本全国、どこも同じというわけではありません。

川の水はきれいであればあるほど良いことは確かです。 けれども、コンクリートで覆われています。
水や下水処理水が大量に流れこんでいる都会の川に、山の清流と同じ水質を求めるのは無理というものです。 したがって、AAからA、B、C、D、Eまで6ランクの環境基準が、地域の実態を考慮してそれぞれの川にあてはめられています。
多摩川なら上流部はAですが、川崎市付近から下流はD。 近年、かなり改善されましたが、以前は汚濁が進んでいるとよく話題になった綾瀬川下流はEです。
騒音の環境基準も、生活環境項目に近い考え方で決められています。 無茶苦茶な騒音を長時間にわたって聞かされ続ければ難聴にもなるでしょうし、不眠症になったりして精神面にも影響が出てきます。
でも、ふつうに耳に入ってくるような音ならば健康に影響は現れませんから、地域の状況によって「維持されることが望ましい基準」は違ってきます。 住宅地は静かなほうがいいですが、工業地帯やターミナル駅前、あるいは道路沿いに住宅地と同じ静けさは求めるべくもありません。
また昼間よりは夜の方が騒音が耳につきますから、土地の利用状況だけでなく、昼夜の別によっても違った値が決められています。 もう一方の環境基準は、人間の健康に影響が及ぶ有害物質について決めたものです。
環境基準と並ぶ、もうひとつの環境についての基準が「排出基準」です。 こちらは、目標値ではありません。
工場が排出基準を超えて汚染物質を排出していれば市役所や県庁から指導を受け、それでも是正されなければ罰則が適用されます。 自動車の排ガスが排出基準を超えていたら、車検に通りません。

ふつう、排出基準は環境基準が達成できるように決められます。 たとえば排水中の有害物質の排水基準(水の場合にはこう言います)は、環境基準の3倍の濃度になっています。
排水口から流れ出た水が川に入れば、3倍以上に薄まるだろうという考えからです。 日本中にある大小様々の排水口に一様に適用できる基準を作ろうというのですから、このくらいの荒っぽさは仕方ありません。
生活環境項目である有機物は、川を流れ下るうちに微生物によって分解されることを考えにいれて、排水基準が設定されています。


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